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デジタルで起こす人材育成のケミストリー

坂本 和繁・松本 昌彦/株式会社クラレ 岡山事業所

アスビト創造ラボ ASUBeTO

ASUBeTO:1 ものづくり×明日人

“ものづくり”のための“もの”をつくる

薄くて鮮やかな大型液晶テレビ、マヨネーズやケチャップのチューブ容器、清掃員が神ワザのようなスピードで交換する新幹線のヘッドレストカバーの〈マジックテープ〉……。

わたしたちの日常のさまざまなシーンを、より楽しく、より便利に、より美味しく、より快適にしてくれる“もの”たち。その“もの”をつくるための“もの”、つまり素材を作っているのが日本を代表する化学メーカーのクラレです。

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イメージ(〈エバール〉を食品包装材として使用した製品群)

ナンバーワン、オンリーワンのDNA

今からおよそ100年前の1926年。倉敷紡績の二代目社長として、工員の労働環境の改善や、社宅・託児所の設置などの『働き方改革』を進めていた先進的な実業家・大原孫三郎が、当時の先端技術である化学繊維レーヨンの事業化をめざして作った「倉敷絹織」が、クラレのはじまりです。

1950年には合成繊維ビニロンの事業化に世界で初めて成功。その後も、ビニロンの原料樹脂のほか紙加工剤や接着剤などに使われているポバール樹脂、テレビやスマートフォンの液晶ディスプレイに欠かせない光学用ポバールフィルム、世界初の人工皮革〈クラリーノ〉、優れたガスバリア性で主に食品包材向けの需要が高まるEVOH樹脂〈エバール〉など、多くの世界ナンバーワン、オンリーワンの素材をつくってきました。

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イメージ(液晶ディスプレイなどに使用されるポバールフィルム)

24時間365日プラントは眠らない

国内9拠点、海外43拠点というグローバルな生産体制を有するクラレグループにおいて、マザー工場としてグループ随一の生産力、技術力を誇るのが、ここ岡山事業所です。
岡山事業所では、4組3交替勤務者を含む約1,700名のスタッフが24時間365日、ひとときも休むことなくプラントを動かし、日本のものづくりを支えています。

事業所長の坂本和繁さんは、一瞬たりとも気が抜けない現場の厳しさをこう語ります。
「クラレグループの行動原則にもありますが『安全はすべての礎』。ここでつくるものは、原料と薬剤の化学反応から生まれます。ですから、ちょっとした油断や操作の誤りが大きな事故や災害にもつながりかねません。危険で複雑な工程において常に安全に配慮し、確実に業務をこなせる“ひと”が求められるのです」

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“know-why(なぜ、そうなの?)”が大事

そのためには、正しい操作の手順を覚えるだけでは不十分。ささいなことでも“know-why(なぜ、そうなの?)と好奇心をもって追究すること、知識だけではなく五感も含めたスキルを磨くことが必要だと、坂本さんは言います。

現場の技術者たちは大学や高専で専門知識を身につけてはいますが、危険物や高圧ガスなどの取り扱いには公的資格が必要ですし、先輩技術者の経験にもとづく“暗黙知”も、共有すべき貴重なスキルです。さらに急激なスピードで進化する最新技術にキャッチアップし、業務の改善に生かすことも求められます。“ものづくり”の現場を支えるひとが学ぶべき知識、身につけるべきスキルは、ますます多様化、高度化しているのです。

では、24時間の4組3交替勤務で働く現場の技術者たちを、どのようにして育てればよいのでしょうか。

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イメージ(<エバール>を使用したガソリンタンク)

デジタルの力でこれからの“ひと”を育てる

10年前、このような“ものづくり”の現場の課題解決のために立ちあがった社員がいました。岡山事業所のeラーニング導入プロジェクトをリードした環境安全部 保安管理グループの松本昌彦さんです。

「現在は総務部と兼務ですが、私も長らく製造の現場にいました。ですから、安全な業務遂行にはどのような基礎知識教育が必要か、優れた技術者を育てるにはどのような環境が望ましいか、よくわかっていました。」

誰もが、自分の仕事に必要な知識を、都合のいい時間に、マイペースで繰り返し学ぶことができること。ちゃんと身についたかどうかをテストで確認し、アンケートを使ってフィードバックもできること。さらにモチベーション高く自律的に学ぶひとをバックアップできること。

そんなLMS(Learning Management System=学習管理システム)の特長を生かした新しい人材育成の仕組み作りに、松本さんは早速チャレンジしたのです。

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イメージ(光学用ポバールフィルムを使用した大型液晶ディスプレイ)

“現場の、現場による、現場のための”eラーニング

松本さんはシステムの導入だけではなく、同僚と協力してeラーニングのコンテンツ制作にも着手。現場の声やヒヤリハット事例をもとに、安全な業務遂行に役立つ具体的な情報を、画像や音声、動画を駆使したデジタルコンテンツにしました。

そこには現場を知りつくした松本さんだからこその工夫も。現場作業の“すきま時間”でも学べる“マイクロラーニング”のスタイルを採用し、“アタマでわかる”だけにとどまらず、“現場でできる”ようにするため、自律的に“考える”要素や、五感をつかって”感じる“内容を取り入れました。
自主制作により企画・開発されたコンテンツに加えて、映像教材やYouTubeなどの外部メディアを積極的に活用し、現時点で運用可能なコンテンツは、およそ50本以上ものラインナップになり、「分かりやすい」「学びやすい」と現場から評価されています。

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イメージ(自主制作e-ラーニングコンテンツ画面)

“危険”を学べ

製造現場の技術者教育で重要なテーマのひとつが“危険を学ぶ“ということです。事故原因を分析すると、ルーティーン作業の慣れから、化学物質など「危険なもの」を扱っていることをすっかり忘れていた、という事実が浮かびあがったのです。だからこそ、くりかえし危険を学ぶことが大事になるのです。

たとえば、アルコール類などの「危険物・引火性液体の取り扱い」の動画コンテンツ。昼間の屋外では目視ではまったく火炎が見えないのに、サーモグラフィーを通すと真っ赤な炎が勢いよくあがっている様子がはっきり見え、思わず「えっ!」とびっくりします。

「学校教育や危険物取扱者資格取得などで引火点等の危険物の物性を理解していても、業務で取り扱っている危険物・引火性液体が実際に燃える様子は見たことがないという人がほとんど。この教材を通じて日常的に取り扱っている物質の燃焼映像を見て『火炎がほとんど視認出来ないこと』や、『黒煙が発生すること』を知らなかった、危険物に対する認識が改まった、といった声が多かったですね」(松本さん)

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イメージ(自主制作e-ラーニングコンテンツ画面)

学習管理システムから業務支援システムへ

さらに革新的なのは、このシステムを学習ツールとしてだけではなく、人材育成ツール、業務改善ツールとしても活用している点です。たとえば、業務習熟度を本人と上司が5段階で評価し合う「業務習熟度スキルチェック」や、上司・同僚・部下など相互に多角的に評価し合う「360度サーベイ」(360°フィードバック評価)も、システムで実施することでデータ集計を容易にし、分析・評価がスピーディにできるようになりました。

「年次目標を立て、eラーニングで学び、現場で経験を積み、スキルチェックで目標到達度を確かめる、という人材育成のサイクルができつつあります」と松本さん。日常の業務プロセスに学びを組み込むこと、スキルチェックのデータで成長を可視化すること、アンケート調査で組織の「強み・弱み」を知り、課題点を絞り込むことなど、デジタルを活用した業務支援はさまざまなところで職場環境を変えています。

たとえば、事業所構内の街灯の数を増やしたのも、半期毎に事業所全従業員に実施している「安全活動アンケート」において、徒歩や自転車で通勤する従業員の「夜道が暗くて危ない」というアンケート回答データにもとづく改善策の1つです。

「このシステムを、みんなが知っていること、考えていることをシェアできるハブにしたい。自分たちの知識や、つくってきたものを未来につなげたい」松本さんのチャレンジはもっと続くようです。

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イメージ(人工皮革〈クラリーノ〉を使用した製品群)

変化に挑戦し、世界にケミストリーを起こす

現場発の人材育成システムを立ち上げ、独自のチャレンジを続けてきた岡山事業所。事業所長の坂本さんは、松本さんたちを支援しつつ、「なぜ、クラレは存在するのか」について考え続けてきました。

「岡山はクラレ創業の地。化学メーカーとしての当社の礎を築いた大原總一郎の、『世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる』という言葉が、私たちのチャレンジ精神を支えてきました。そして変化の激しい今、われわれが取り組まなければならないのは、未来につながる“ひと”の育成です。働く人たちの知的好奇心に応える環境つくりをこれからもサポートしたいと思います」

(注釈)
〈マジックテープ〉、〈クラリーノ〉、〈エバール〉はクラレの登録商標です。

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イメージ(創業初期の倉敷事業所(1930年頃))

明日人の目

明日人の目

企業の“学び”が業務の現場から離れて行われる“イベント”だった時代は終わりました。今や“学び”は、“ワーク・プレイス・ラーニング”や“オン・ザ・ジョブ・ラーニング”と表現されるように、業務“プロセスの”一環として、業務の現場で行われるように変わりつつあります。そのような“学び”のトランスフォーメーションに欠かせないのが、パフォーマンス・サポート・システム(PSS)というデジタル・ツールです。仕事に必要なことを仕事の現場で学び、学んだことをすぐに仕事に生かすこと。PSSの導入でそれが可能になったのです。クラレ岡山事業所が先進的な人材育成システムを立ち上げ、PSSを運用していることは、まさに未来につながる人材育成のDX。唯一無二のものづくりに挑戦し、世界を変えるケミストリーを起こしてきた企業だからこそできることだと思うのです。

アスビト創造ラボ 編集長

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PROFILE

(写真左)
坂本 和繁(さかもと かずしげ) 
株式会社クラレ 執行役員岡山事業所長
岡山県出身
1988年4月 株式会社クラレ入社
2010年4月 岡山事業所ビニロン生産技術部長
2013年4月 繊維カンパニー生産技術統括本部生産技術統括部長
2016年1月 西条事業所長
2020年1月 岡山事業所長 [現職]

(写真右)
松本 昌彦(まつもと まさひこ)
株式会社クラレ 岡山事業所 環境安全部 保安管理グループ 課長代理 / 総務部兼務
鳥取県出身
1997年4月 株式会社クラレ入社
1997年4月 岡山事業所 ポバール・エバール生産・技術開発部
(〈エバール〉プロセスの生産管理、技術開発業務に従事)
2015年3月 岡山事業所 環境安全部/総務部 [現職]
(保安管理業務、事業所内人材育成業務等に従事)

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