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“ごみゼロ”を目指す町 ~上勝町 前編~

花本靖/徳島県勝浦郡上勝町長

アスビト創造ラボ ASUBeTO

ASUBeTO:18 地域×明日人

日本初「ゼロ・ウェイスト宣言」の町

2003年、徳島県にある人口約2,200人(現在は約1,400人)の小さな町が「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、世間を驚かせました。“ごみの排出ゼロ”を目指す上勝町のこの取り組みは、スタートから20年を経た現在も続いています。SDGsという言葉を耳にする機会がなかった当時、どのように取り組みを始めたのでしょうか。町役場の職員時代からプロジェクトに携わってきた花本靖町長に、これまでの歩みと現在の課題、さらに未来の上勝町についてうかがいました。

ごみが出た後の“対応”ではなく、未然の“対策”を

———上勝町が「ごみをどう処理するか」ではなく、「ごみをなくす」というテーマに至った経緯を教えてください。

以前は、町内を流れる勝浦川の上流部に設置された2基の焼却炉でごみを処理していたのですが、そのうちの1基が「ダイオキシン類対策特別措置法」に引っかかってしまいました。その際に、修理して現状を維持するか否かの議論が起こり、焼却ではなく、ごみを減らせないかと検討することに。きっかけは、米国の大学教授であるポール・コネット博士の言葉です。彼が上勝町にいらした際に、「行政は、何か問題が起きた後の対応しか考えていない。もし、蛇口から水を流し続けたら、最終的にあふれます。なぜ、あふれた後の処理ばかりを考え、あふれる前に『蛇口を閉める』ことをしないのですか」とおっしゃいました。この言葉に感化され、ごみについても同じ考え方ができるのではないかと検討を始めたのです。

———ごみや環境に対する意識が現在ほど高くなかった当時、町民にはどのように理解を求めたのでしょうか?

分別に挑戦する前の1993年ごろから4年間ほどかけて、町をあげて勉強する機会を設けました。過疎が進む町でもあったので、最初はごみではなく、行政のあり方について考える時間になりました。行政がしなければいけないことはもちろんありますが、町民側でも「高齢者にできること」「青年たちが担うこと」というように役割分担をしたうえで、それぞれ何をすべきか考えてもらおうと。今、自分たちが置かれている状況に対して“1つの疑問(Question)を持って行動する”という意味で、「1Q運動」と名付けました。

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自然豊かな上勝町には5つの地区が存在                       ©︎藤井

ひとりひとりの意識改革

———具体的にはどのような形で勉強したのでしょうか?

まずは上勝町職員の意識改革を目指し、通常業務のない土日に研修を行いました。超過勤務手当が出ないので自由参加にしたところ、当初は限られた職員しか参加しませんでした。しかし、参加した職員の意識が変わり始めると徐々に興味を持つ人が増え、最終的にはほぼ100パーセントの職員が参加するように。これを2年間ほど続けた後、町民へは、高齢者であれば老人会、女性であれば婦人会といった既存のグループを通じて講習会を行いました。同時に、5つの地区それぞれで「1Q運動」を展開しながら独自の取り組みを推進し、ごみが放置されている場所の清掃や案内看板の設置、景観整備などを進めました。いい意味での競争意識と、学びあう場を持ってもらうために、年に1回、それぞれの取り組みに対する成果を表彰するなどして活性化を図ったのです。

———そういった取り組みにより、町民に変化は起きたのでしょうか?

変わったと思います。この活動のアドバイザーを務めていただいた会社経営コンサルタントの先生が、「ひとりひとりが“自分ゴト”として考えなければ、どんな組織もいつかつぶれる」というビジネスの思考を行政向けにアレンジしてくださり、全町民が問題意識を共有できるように取り組んだ結果です。仮に、こういった意識改革がないまま行政からの押し付けだけで「ゼロ・ウェイスト」の活動をスタートしていたら、「リサイクル率80パーセント達成」という今の状況は生まれていなかったと思います。

ただ、積極的な町民から称賛の声があがる一方で、不満の声が一定数あることも事実です。繰り返し取り組みの趣旨を説明し、理解してもらう努力を続けています。

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「全町民が笑顔で生活できる仕組み、環境づくりを目指し続けます」(花本町長)  ©︎上勝町

経験から見えてきた新たな課題

———上勝町の取り組みについて、ほかの行政体による視察だけではなく、修学旅行での見学も増えているそうですね。

はい、それが「ゼロ・ウェイストセンター」を作った成果でもあります。センターは町民がごみを持ち込み、分別する場所であると同時に、多くの人がごみについて学べる施設になっています。子供のころから学ぶことで、「焼却じゃない方法もある」と幅広く考えてもらえるのではないかと。「分別されたものがどこへ行くのか」「何に生まれ変わるのか」ということのほかに、「処理にいくらかかる」「リサイクルしたらいくら戻ってくる」など、ごみに関する経済観念も分かる施設になっています。

———現在、優先すべき課題はありますか?

「ゼロ・ウェイスト」の取り組みは町民の協力がなければ成り立ちませんので、町民の負担を減らすことが優先事項ですね。例えば、ごみを回収するパッカー車を走らせずに、町民の手でゴミを運んでもらっていますが、この取り組みにどの程度の効果があるのかと。それを把握するために、2023年度は二酸化炭素の排出抑制効果を計測しています。仮に効果が少なければ、別の方法を考える必要がありますから。

また、ごみのリサイクル率が80パーセントまで伸びましたが、残りの20パーセントは“消費者の努力だけでは対応できない”ということがわかってきました。メーカーにもご協力をいただき、特殊な薬品や道具を使わずにリサイクルできる製品を作っていただく必要があると。石油から作られるプラスチック類はリサイクルされますが、ペットボトルが繊維などに生まれ変わると、2度目のリサイクルはできなくなります。しかし、「水平リサイクル」といって、ペットボトルからペットボトルという形で同じものを生成する場合には、何度もリサイクルできるのです。今は、この水平リサイクルを可能にする取り組みを、多くの企業が始めています。これによって、上勝町だけではなく、世界的なごみの削減につながると期待しています。

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「ゼロ・ウェイストセンター」には町民のほか、町外からの見学者も多く集まる   ©︎上勝町

デジタル技術の活用で拓く過疎の町の未来

———それでは最後に、「明日の上勝町」をどのように思い描いていらっしゃいますか?

上勝町には「株式会社いろどり」が取り組む“葉っぱビジネス”があります。料理を美しく彩る葉や花などを生産、販売するこの事業は、スタートから40年近くが経ち全国的にも有名になりました。作業する農家さんたちは、かつては町内放送をたよりに仕事を進めていましたが、現在は高齢者の皆さんもスマートフォンを使って受注情報などをキャッチしながらビジネスに取り組んでいます。こうしたデジタル技術の進化は、上勝町のような田舎と都会の情報格差をなくしてくれました。
だからこそ、上勝町のような小さな町でもできることをしっかり見極め、新たな技術を使うメーカーやリサイクル業者の協力を得ながら、挑戦を続けたいと思います。完全にごみがゼロになる日がいつくるのかは分かりませんが、多くのことを試しながら、少しずつでも状況を変え、「ゼロ・ウェイスト」を目指していきたいですね。

(2023年7月18日)

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上勝町と協賛企業6社(石塚王子ペーパーパッケージング株式会社、きせきれい株式会社、三信化工株式会社、株式会社生産日本社、日本テトラパック株式会社、古河電気工業株式会社)による官民共創プロジェクトとして、マテリアルリサイクルが困難な食品包装フィルム等から作られる給食トレイの実証実験などにも取り組んでいる                  ©︎上勝町

明日人の目

明日人の目

ごみを教材に、持続可能な幸せを手にする方法を学ぶ場所

大量生産・大量消費をくりかえす経済システムが地球環境におよぼす影響は、年々深刻になっています。
「このままでいいわけはない」
「どうにかしないといけない」
誰もがそう思うのですが、自ら進んで「ライフスタイルを変えよう」と行動できないのは、「距離」と「時間」の問題があるから、とべストセラー『人新世の「資本論」』の著者、東京大学准教授の斎藤幸平さんは指摘します。
 「距離の問題」とは、不都合な問題を自分の目の届かない場所に追いやることで、あたかも問題が解決したかのように錯覚すること。また「時間の問題」とは、たとえば今私たちが排出しているCO2で気温が上がるのは数十年後というタイムラグがあることから、「今じゃなくても、いいでしょ」と先延ばしして勝手に安心することです。
 こうした都合のいい錯覚や先延ばしに正面から向き合い、
「不便でも、がまんする」
「面倒でも、やってみる」
ことにシフトするためには、What(何を)、How(どのように)の前に、まずWhy(なぜ?)を学ぶこと、が大事です。
「なぜそれを買うのか?」
「なぜそれを捨てるのか?」
「なぜそれを作るのか ?」
「なぜそれを売るのか?」
 目の前のごみを教材に「なぜ」を学ぶ上勝町ゼロ・ウェイストセンターは、「距離」と「時間」が、私たちの現実を見る目を曇らせていることを気づかせてくれる場所。
どうすれば便利を手放して、持続可能な幸せを手にすることができるのかを学ぶことができる、貴重な場所なのです。

アスビト創造ラボ 編集長

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PROFILE

花本靖(はなもと・やすし)/徳島県勝浦郡上勝町長

上勝町出身。1978年に上勝町職員となり、2004年4月から産業課長、2008年から総務課長を歴任し、2013年4月に上勝町長に就任。現在は3期目を務めている。

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