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産後ママの笑顔は日本の未来をつくる

大久保ともみ/一般社団法人日本産後ケア協会代表理事

アスビト創造ラボ ASUBeTO

ASUBeTO:3 少子化×明日人

ママの幸せは家族みんなの幸せ

女性にとって出産は、大きなライフイベントです。新しい命を迎える喜びと同時に、大きな負担もかかります。出産自体が体力を激しく消耗させるうえ、産後の授乳におむつ替え、沐浴、少したつと夜泣きに離乳食、公園デビューに予防接種と、初めてのことが目白押し。赤ちゃんのケアをがんばりすぎて、自分のことはついつい後回しになってしまいます。

また近年はママをとりまく環境も変化。仕事との両立に悩む人や、核家族化でサポートの手がない人、また新型コロナの影響でママ友とのつながりをつくれず、社会的孤立を感じる人も増えています。その結果、子育てが思うようにいかないことをすべて自分のせいにして、10人にひとりが産後ウツになるともいわれています。

そうした中、新米ママのココロとカラダをサポートする『産後ケア』ということばが注目を集めています。厚生労働省も少子化対策に生かそうと、実態調査と法整備に着手しました。

その『産後ケア』の普及に、いち早く取りくんできた女性がいます。

「ママのココロとカラダが健康なら、家族はみんなハッピーですから」という、日本産後ケア協会代表理事の大久保ともみさんです。

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ケアの引きだしが人生を豊かにする

「小さいころから好奇心旺盛で、ワクワクすること、誰もやってないことに挑戦するのが好きでした」という大久保さん。音楽家の父のもとでピアノの英才教育を受け、当然のように音大に進学してピアノ講師になったものの、なぜかワクワク感を感じられなくなっていました。

そこで一念発起してめざした職業がアロマテラピスト。子供のころから鼻がきいたことと、日本ではほとんど知られていない仕事で面白そう、というのが理由です。イギリスで学び、帰国後にアロマテラピーの会社を設立。当時、まだ珍しかったアロマによる空間演出や商品企画は評判を呼び、医療関係の施設からの問合せも多くありました。

ホスピスや高齢者施設の利用者には、匂いが気になって気持ちが落ちこんだり、人と会うのを躊躇するひとがいます。その悩みをアロマで改善できないか、というのが依頼の内容でした。

「老いや死に直面するひとの、痛みや不安をすべて取り除くことは難しい。でも、アロマテラピーのようなケアをすることで、日常のちょっとした困りごとや不快さ、不便さを和らげることはできます」と大久保さん。

そして、そうしたケアの引き出しをたくさんもっているひとほど、QOL(Quality Of Life)が高いことを実感。“ケア”という言葉が、大久保さんの心の中で大きくなっていったのです。

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赤ちゃんだけでなくママにもケアを

こうして仕事をしながら、出産、子育ても経験した大久保さんは、いつしか働くママもケアしたいと考えるようになっていました。

ちょうどその頃、あるニュースを目にします。それは、女優の小雪さんが出産と療養のため、韓国の産後院に滞在したというものでした。

「産後院のように、ひと月かけて母体をいたわりながら、母親としての心構えや赤ちゃんの世話の仕方を身につけることができれば、その後の子育ての質は大きく変わるはず。こうした産後ママを支える仕組みは、少子化や子どもの虐待、育児放棄などの問題を抱える日本にこそ必要だと強く感じました」

新たな情熱がわきあがるのを感じた大久保さんは、お子さんの高校卒業と同時にママ卒業を宣言。“産後(さん・ご)”にちなんだ2013年の3月5日、日本産後ケア協会(以下協会)を立ちあげたのです。

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感性が未来のブームを教えてくれる

アロマテラピーに産後ケアと、大久保さんの好奇心は、時代を先読みしているところが共通しています。

「アロマのときは若さゆえの勢いでした(笑)。協会を立ちあげたときも、周りからは『え、また!?』と驚かれました。けれども、これは絶対に社会に必要だからと説明したら、みんな賛同してくれましたね」

それにしても、そのまっすぐな情熱はどこから生まれるのでしょうか。

「これまで組織で働いたことがないから、まわりの目や常識にとらわれずに、これはいい! これは必要! と思ったことに猪突猛進できるのかも。それに私、鼻がきくっていったでしょ(笑)」

どうやら大久保さんの鼻は、アロマだけではなく、社会の変化にも敏感らしいのです。

「私が“面白い”と思ってのめり込んだものは、5年後、10年後に必ずブームになるんです。だから、“これは絶対いい!”とピンときたものには、したたかに挑戦するようにしています」

新しいことに挑戦するとき、商売になるとか、もうかりそうだ、なんて考えたことがない。
もしそんな見方をしていたら、おそらく協会を始めることはなかった、と語る大久保さん。

そんなひとのあとを、時代は追いかけてくるのかもしれません。

より良い社会は、より良い子育てから

協会の発足から9年。大久保さんは、「産後ママの負担を軽減することで、家族の満足度を向上させ、社会全体のしあわせ指数を向上させる」という『産後ケア』の理念を広めるとともに、ケアの専門家『産後ケアリスト』の育成、産後ママのための施設『産後ケアセンター」の開設にも取りくんできました。

さらに、産後ママ限定バスツアー、夜間無料電話相談、赤ちゃんと一緒に美術鑑賞する“バギーでアート“、京都町家での産後ケアサービスなど、まだ、だれもやったことのないこと、でも、やったら絶対にみんなが笑顔になると胸が高鳴ることに、つぎつぎチャレンジしてきたのです。

情熱に後押しされて一歩一歩進んできた『産後ケア』の仕組みつくりを振りかえって、大久保さんはこう言います。

「子育て支援というと、つい“赤ちゃん”の方に視線が集まりがちですが、“産後ママ”こそ支援が必要だということ、そして、ママのカラダだけではなく、ココロもケアすることが重要なことが、少しずつ認知されてきたと思います。少子化がさらにすすむ未来を、より良いものにするには、家庭も地域も社会も協力して、子育ての世界を良くすることがカギだと思います」

大久保さんが“これは絶対いい!”と感じて始めた『産後ケア』。5年後、10年後にはきっと、社会を支える大きな力になっているはずです。

(2022年12月7日)

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明日人の目

明日人の目

キャリア・デザインを考えるとき、往々にして『今の自分』を基準にしがちです。今の自分がもっている知識やスキル、今までした経験をもとに未来を描くことは、安全で安心、確実だと感じるからです。しかし、想像を超える変化がおしよせる時代には、『今の自分』にとらわれることが逆にリスクになることがあります。これからの社会に貢献できるキャリアを築くためには、まず、『今までの自分』というシバリをいったん取りのぞくことが必要です。『今まで』にしばられない未来を描き、『できそうなこと』ではなく、『したいこと』『すべきこと』を発見すること。そして、その未来を実現するために『今の自分』が挑戦すべきことを具体的なアクションとして掲げること。これが、これからのキャリア・デザインに必要な『バックキャスティング』の考え方です。時代の変化に敏感な大久保さんが推進する『産後ケア』活動は、まさに少子化対策の『バックキャスティング』から生まれた取組みです。

アスビト創造ラボ 編集長

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PROFILE

大久保ともみ(おおくぼ・ともみ)/一般社団法人日本産後ケア協会代表理事

大学卒業後起業し、その後結婚→出産。出産直後から、実家の母、区のサービスである保育ママ制度、民間のベビーシッター、友人、そして保育園など、ありとあらゆる社会的資源を駆使しながら仕事と子育ての両立を経験。子どもの大学入学を機に子育て卒業宣言し、日本に子育てサービスが溢れる社会を目指して、2013年3月5日(産後ケアの日)に協会を設立。

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