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青空の先に未来を見る

髙梨智樹/ドローンパイロット

アスビト創造ラボ ASUBeTO

ASUBeTO:13 テクノロジー×明日人

ドローン操縦のトップランナー

ゴーグルの内側の映像を見ながら、時速200kmにおよぶスピードで飛ぶドローンを操縦する髙梨智樹さん。ドローンパイロットとしての技術を高く評価され、レース以外にも活躍の場を広げています。趣味からスタートしたドローンが社会貢献を果たすまでの歩みと、その先に何を見据えているのかお話をうかがいました。

トリの目線で操縦できるドローンの魅力

———ドローンと出会ったきっかけを教えてください。

幼いころから体が弱かったこともあり、外に出るきっかけのひとつとして、父がラジコンのヘリコプターや飛行機に触れる機会を作ってくれました。小学4、5年生頃のことです。もともと空を飛ぶものは好きでしたし、パイロットになりたいという気持ちもあったので、上空からの景色を見るために、ラジコンにカメラを載せて飛ばせないかな?と考えていました。ある日、プロペラがたくさんついた機体にカメラを載せて飛ばしている動画を見つけて「これは面白そうだ!」と。そこからいろいろと調べ、必要な部品を取り寄せ、自分で組み立てたのが僕にとって最初のドローンです。中学2年の終わり頃でしたが、当時はドローンという名称がなく「マルチコプター」と呼ばれていました。

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独学で研究し機体を完成

———組み立て方法や機構、制御システムについてはどのように学んだのでしょうか?

今ではある程度、ドローンの作り方は整理されていますが、当時は人によって作り方が違いましたし、日本語の解説はほとんど見当たりませんでした。僕の場合、文字の読み書きがうまくできない「ディスレクシア」と呼ばれる識字障害があり、今ほど音声認識ソフトや翻訳ソフトが充実していなかった当時は、勉強するのが本当に大変でした。1年半ぐらいの間、毎日数時間をその研究に費やしました。

———ラジコンのヘリコプターよりドローンにハマっていった理由は?

ラジコンのイメージは、手の上に傘を立ててバランスをとるようなもので、1秒でも目を離すと落下します。でも、僕が最初に作ったドローンでさえホバリング(空中停止飛行)機能がありましたし、GPSも付いていたので、仮にリモコンとの通信が切れてしまうほど遠くに飛ばしても、ちゃんと自力で帰ってくるんですよ。その性能の高さに引き込まれました。

                                    撮影/髙梨智樹

レースで磨いた技をビジネスに生かす

———その後、レースで活躍しながらさまざまな活動を行っていますが、現在はどのようなことに注力されていますか?

父と一緒に立ち上げた「スカイジョブ 合同会社」では、スポンサーが付いて参加するレースのほかに、空撮や橋梁点検、機体開発などに取り組んでいます。講師としても活動していて、例えば、厚木消防署と防災協定を結び、ドローンを使った訓練の指導や、災害時には出動要請を受けることもあります。

———ご自身としてはレースが一番お好きなのだとか?

僕は負けず嫌いなんですよ(笑)。2021年、2022年のJDL(JAPAN DRONE LEAGUE)年間ランキングでは9位、8位と少し下がってしまいました。「高梨くんは色々やっているからしょうがないよ」と言ってくれる人は多いのですが、自分の中では納得していません。やっぱり1位になりたいですね。しかも、レースは楽しいだけじゃない。スピードと緻密な操作が必要なレースの技術は、空撮や機体開発などにも生きています。

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100g程度のレース用ドローン(中央手前)と4Kgの撮影用ドローン(中央)では操作感も異なる

ドローン技術による社会貢献

———機体開発とは、具体的にどのような仕事なのでしょうか?

国からの要請を受け、被災地の調査などを行うことがあります。狭い空間やGPSが使えない場所での操縦が必要になることもあり、通常のドローンでは作業が難しい場合は、そのミッション専用の機体を開発します。例えば、普通のドローンは搭載したバッテリーを消費しながら飛行しますが、有線での電力供給が必要な状況では、ケーブルを引っ張りながら飛ぶ機体の開発をします。また、垂直移動しないとたどり着けない場所であれば、通常は付いていない上方を確認するためのカメラを付けたり。それぞれ特殊な操縦が必要ですので、パイロットとしての感覚を伝えながら、エンジニアと共同で開発しています。

———ドローンの活躍場面は増えていますが、社会に与えた影響とは?

僕のレーススポンサーでもあるスポーツブランド「Admiral」の親会社は豊田通商株式会社で、その系列会社が、長崎県の五島列島で物流のドローン運用をしています。島が多く、車や船では輸送が難しい場所で医薬品などを運んでいるのですが、これはすごいことですよね。ドローン技術は災害時の情報収集などにも生かせるので、今後、多くの社会問題の解決につながると考えています。

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ダイバーシティを支えるテクノロジーに

———高性能AIが話題になっていますが、ドローンの進化についてはどうお考えですか?

自動制御の性能向上が目覚ましく、例えば自動車のCMで空撮をするときに、一定の高さを保ちながら走る車を追い続けることはAIによって可能になるでしょう。ただ、よりクリエイティブな操縦や撮影は、やっぱり人間にしかできない仕事だと思います。僕は、サッカー選手がシュートしたボールをドローンで追いかけたことがありますが、いつか、大谷翔平選手が打ったホームランボールを、観客がキャッチするまで追いかけるような撮影のチャンスがあるかもしれません。そこにはやはり人間にしかできない、環境や状況に特化した技術が必要ですよね。災害時にインフラが使えなくなった場合にも、人間の力が問われ、その技術が役立つはずです。

———それでは最後に、髙梨さんが考える「明日のドローン」とは?

現時点では、期待と不安を抱えている人が多いと思いますが、さらにドローンの実用化が進めば、頭の上をドローンが飛び交う世界に慣れていくと思います。自動車が登場した当時、人々は戦々恐々としたそうですが、今では当たり前の光景になっているのと同じかなと。技術の発達とともに、それを使う人間の感性も変わっていくと考えています。

ドローンに関する法律がようやく整い始め、レベル4(有人地帯の目視外飛行)もできるようになりました。現時点では、「(モニターなどを使って)監視ができれば飛行可能」と規定されているので、車椅子を使っている人や、障害があって外出できない人がドローンの操縦を仕事にすることもできるでしょう。免許の取得に関しては、僕のようなディスレクシアの人でも、試験内容を読み上げてもらい、答えを代筆入力してもらう方法で受験できるのです。ダイバーシティが注目される時代に生まれた技術、制度だからこそ、ドローンはさまざまな人の可能性を広げるだろうと期待しています。

(2023年5月2日)

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明日人の目

明日人の目

才能とは、恋するように夢中になれるものを見つける力

 ベストセラー『さあ、才能に目覚めよう』の著者で、能力開発のエキスパートでもあるマーカス・バッキンガム氏によれば、「才能をつぶしてしまう迷信」の最たるものが、「バランスのとれた人材が優秀である」という思い込みだとか。

 外国語から数学まで、ピアノからサッカーまで、あらゆる分野を要領よくこなし、そこそこの成績を残せる学生、これといった「弱み」がない学生は、大量生産大量消費を掲げる工業化社会ではまことに重宝な人材でした。

 しかし、卒なくスピーディに仕事をこなし、なにを問われてもまずまず納得できる答えを用意するのは、今やロボットやAIのほうがずっと優れている情報化社会です。人の存在価値を高めるためには、自分の「弱みを克服すること」ではなく、時代の先を行く、とんがった「強みを発見して伸ばすこと」が欠かせない、とバッキンガム氏。

 そのためには、「恋をするようにドキドキして夢中になれること」を見つけて、それを一生懸命に続けること、つまり“Love and Work”できる力こそが、いま最も求められる才能だといいます。

「ディスレクシア」を個性ととらえ、「飛ぶ夢」を一心に追い求めてきた高梨さんが、ドローンパイロットのトップランナーとして、レースだけではなく、空撮や機体開発、災害時の情報収集など、様々な分野で目覚ましい実績を重ねているのは、自身の強みにフォーカスし、恋をするように夢中になれるものを発見できる才能に恵まれていたからに他ならないのでしょう。

アスビト創造ラボ 編集長

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PROFILE

髙梨智樹(たかなし・ともき)/ドローンパイロット

1998年生まれ、神奈川県出身。小学生のときにラジコンのヘリコプターや飛行機と出会う。中学生時代に「識字障害」(ディスレクシア/読み書き障害)の診断を受け、音声認識ソフトや翻訳ソフトを駆使しながら、中学3年生になる直前に自作のドローンを完成。2016年、ドローンレース参戦から約半年で国内大会優勝を果たし、「World Drone Prix 2016 Dubai」「DRONE SPORTS CHAMPIONSHIP 2018」などの国際大会に出場。その後、父親とともに「スカイジョブ 合同会社」を設立し、ドローンに関わるさまざまな業務を行う。2020年、「文字の読めないパイロット 識字障害の僕がドローンと出会って飛び立つまで」(イースト・プレス)を上梓。現在、趣味でスタートしたモーターパラグライダーでの撮影業務を準備中。

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